今回の特集記事は、昨今新聞にも取り上げられました「宇宙港」に関してお届けします。
2020年、大分空港はアジアで初めて「宇宙港」となりました。皆さん「宇宙港」って何だかご存じですか?
宇宙港とは、人や人工衛星が宇宙に行くための港のことです。大分の空から宇宙へ飛び出していくなんて夢とロマンがありますよね。
宇宙へ打ち出されるロケットや人工衛星に搭載される機器や技術に大分県内企業が携わっていることはあまり知られていないかも知れませんが、「ものづくり」のおもしろさ、そして、優れた「ものづくり」技術が要求される航空宇宙産業には、大分の中小企業が活躍できる場があることが証明されております。
「大分から宇宙への挑戦!!」を題材に、大分県内企業で事業に携わった企業を4社ご紹介します。
宇宙関連産業に興味のある皆様へ、中小企業の魅力、製造業の魅力を発信しますので、是非、最後までご覧ください。
宇宙港に携わる大分県内企業
◆株式会社 江藤製作所
☝ 【企業概要】
株式会社江藤製作所は、1971年、江藤酸素株式会社の極厚鋼板及びステンレス鋼板の精密溶断工場として創業以来、常に時代の要請を先取りして次々と新分野に挑みつつ、レーザ加工部門・化工機製造部門・精密板金塗装部門・メカトロ機器の設計・製作と逐次事業を拡大、現在に至っています。生産拠点も大分本社工場含め、八幡工場、佐賀工場、杵築工場と4地区に展開して参りました。
今後とも弊社は、変貌を続ける日本の産業構造に対応し、「伝統に培われた多彩な技術と豊かな品性を発揮して社会に役立つ価値を創造しよう。」の経営理念の下、さらなる飛躍を目指して着実なる前進を続けて参ります。
<事業内容>
《化工機》各種プラント設備の設計・製作・現地据付までの一貫工事。
※JIS9100認証登録(宇宙・航空・防衛分野)
《溶断》ガス・プラズマ・レーザー切断加工。
《FA機器》各種、省力・省人装置の設計・製作。
《精密板金》各種、盤・機器外装他、製缶・板金製品の製作・加工。
☝ 【「てんこう」開発に参加した経緯、開発での貴社の役割、苦労した点、エピソード等】
大分県の“そら研”※1にて、九州工業大学奥山教授の紹介を受けた事でスタートしました。
弊社は長年に亘り、種子島宇宙センターの地上設備の建設に携わって来た経緯があり、小型衛星開発は、自分たちの行っている宇宙産業と方向性が合致したので、本プロジェクトの参加を決めました。大分県内4社で分担して開発に挑戦しました。
弊社では、衛星「てんこう」のCFRP製外構造をオートクレーブ成型にて製作することを目的としました。CFRPの成型自体初めての事だったので当時九州工業大学の奥山教授やその他さまざまな方面から、まず情報を集める事から始めました。次にCFRPの成型設備である真空加熱炉(オートクレーブ)の設計製作となりました。真空加熱炉のヒーター及び炉内全域で温度≦±0.5℃制御の設計では大変苦労しました。
こうして、成型までに化工機事業部の6人以上のメンバーが係わって、13ヶ月を要し完成させる事が出来ました。
※1)”そら研”・・・「大分県航空宇宙産業参入研究会」
☝ 【開発に参加したことでの社内外での変化】
CFRP成型を目指して行ったプロジェクトを経て、今までになかった発想や繋がりを得ることができて、新しい分野へ挑戦しやすくなったと思います。今回のオートクレーブ製作の実績から、真空熱処理炉製作も視野に入れ、先々、金属の真空ブレージング品製作を行っていく計画です。
☝ 【「宇宙への挑戦」に関わる貴社のこれからの展望】
CFRP成型技術をさらに深化・発展させることで、既存の金属加工分野とは異なる分野で、特に航空・宇宙分野への展開を図りたいと考えています。当社は航空・宇宙関連の仕事に長年携わってきた実績があり、その実績を基に新分野への展開準備を進めています。
☝ 【UIJターン就職希望者や学生へのアドバイス】
今まで未経験のことに挑戦し目的を達成するためには、数多くの失敗と試行錯誤を繰り返す必要があります。壁に突き当たり前進がままならない時には素直に周囲のアドバイスや助言を仰ぎ、自身の思い込みを一旦捨て一からやり直してみることで意外と正解を得ることが出来ます。自分という狭い枠にとらわれず、幅広く様々なアイディアを受入れ、且つそれを実践し試してみることは、大きな目的を成し遂げる上で必要不可欠だと思います。
■株式会社 江藤製作所
大分市乙津町4番7号
097-521-1834
http://www.etoss.co.jp/
◆株式会社ケイティーエス
☝ 【企業概要】
弊社は、沿革として3つの会社の融合により現在の事業軸の核を形成しており、それぞれ①基板事業、②IOT通信事業、③メカトロ事業として、固有の技術資源を活かしながら統合による相乗効果を創出した開発、またモノづくりの基幹人材を有し「匠」の技能を伝承しながら、各事業軸の強みを活かした事業展開をしております。
☝ 【「てんこう」開発に参加した経緯、開発での貴社の役割、苦労した点、エピソード等】
弊社は「てんこう」内部の電気制御を司る制御基板の開発設計を担当致しました。
宇宙空間という超過酷な環境下で正確な制御ができるような基板回路設計は、経験則や机上の設計ノウハウを超えて想定の世界での品質確保が大きな課題でした。宇宙空間で万一故障の際代替交換ができない為、基板としてのバックアップ回路の構築などいろいろな技術ノウハウを詰め込んだ製品となる中、開発期間も短く何度も試作、試験を重ねてJAXAの規格に合格した際には感激をし、無事打上げに成功した折には感無量でした。
同乗の「いぶき2号」ロケットで打上げる予定の他の人工衛星がミッションを離脱する中、打上げ後も順調に観測データを送り届けて、日本上空を通過する際に「てんこうの声」として送信電波を受信し聞いた時には、大変貴重で感動的な経験をさせて頂き大分の子供たちと一緒に感動しました。
☝ 【開発に参加したことでの社内外での変化】
プロジェクトリーダーで航空宇宙工学の奥山博士には、短期間の開発の中成功裏にミッションを完遂することができたことで、大分地元企業の固有技術力に敬服され、賞賛の言葉を頂きました。
またJAXAの評価も高く、同時期に打上げ予定の衛星がいずれも離脱していく中、打上げ成功と観測データの採取まで出来たことの貢献度は、客観的にも広く評価されました。
社内では独自技術の高さを広く認識できたこと、社外的には宇宙開発に携わることができる技術力と品質レベルを保有している事には驚嘆頂き、新たな目線でのビジネス協業に繋がりました。
☝ 【UIJターン就職希望者や学生へのアドバイス】
現在のネットワーク社会の世の中において、都市と地方の情報格差は無いに等しいと認識してます。またコロナの影響で働き方も大きく変化しており、情報に関する選択と集中、会話(コミュニケーション)による衆知結集が企業運営に必要と考えます。
専門能力の深耕と合わせ、情報と会話にも留意し自ら発信し周囲を捲き込むスキルの能力開発ができる人材が今の企業には必要と考えます。
■株式会社ケイティーエス
大分県杵築市山香町大字南畑5004-100
0977-44-6100
https://www.kts-web.jp/
◆株式会社 デンケン
☝ 【企業概要】
当社は、1975 年の創業以来、果敢なチャレンジ精神を企業風土とし、ビジネスが高度化・複雑化する中、安定性と競争力を高めるため、積極的に事業の多角化に取り組んで参りました。現在は6種の事業を柱とし、幅広い分野へ多岐に渡る製品・サービスを展開することで、国内だけでなく海外からも多くの信頼を得るに至っております。
経営理念には「共栄」を掲げ、その中の一つとして、「何事も恐れずにチャレンジ」を大事にしています。
☝ 【「てんこう」開発に参加した経緯、開発での貴社の役割、苦労した点、エピソード等】
参加の経緯:2017年5月、県内企業で構成する「そら研」で、奥山教授の講演があり、県内企業で「てんこう」共同開発参画の呼びかけがありました。その時は詳細な仕様等は不明、開発期間も1年半と厳しい条件でしたが、その場で手を挙げ、4社での共同開発がスタート。㈱デンケンは、電源・通信システムを担当しました。
苦労した点:基板に使う実装用の電子部品は支給頂けましたが、FM(フライトモデル)製作時では、最終期限まで1か月程と時間的余裕がありませんでした。そんな中、支給品受取り、基板発送等はハンドキャリ―等で対応しました。大学側の担当学生は、昼は授業もある中、詳細な情報の共有は夜中に対応するなど、チームの努力で、最終期限に間に合わることができました。
☝ 【開発に参加したことでの社内外での変化】
2018年10月29日の打ち上げ時には、JAXAへデンケン社内でのパブリックビューイングを申込みしたことで、リアルタイム視聴することができ、社内外で反響は大きかったです。
JAXAHPでパブリックビューイング場所の情報公開もあり、当日は多くの取材陣が本社に来て下さいました。そのおかげもあり、翌年からの採用では、宇宙に興味のある若者からの問い合わせが大変増えました。
☝ 【「宇宙への挑戦」に関わる貴社のこれからの展望】
「てんこう」の成功で、宇宙分野への関りが出来、多くの方々とご縁が出来ました。引き続き、大分県の宇宙産業開拓の一役を担えるよう、期待に応えていきたい。
☝ 【UIJターン就職希望者や学生へのアドバイス】
「てんこう」の成功で、奥山先生と「スペースサイエンスショーin香々地」と題して、講演をする機会(2019年3月2日)がありました。その時の言葉を記します。
・宇宙の神様は、必ず失敗や挫折を経験させます。
・夢を実現するために、決して、諦めることなく、困難を一つ一つ、乗り越えて、誠実に、誠実に、ただ誠実に。
・宇宙の神様は、諦めなかった人と、誠実で努力した人に微笑んでくれると思います。
■株式会社 デンケン
大分県由布市挟間町鬼崎688-2
097-583-5535
https://www.dkn.co.jp/
◆ニシジマ精機 株式会社
☝ 【企業概要】
当社は大分県南部の佐伯市に1948年に設立し創業74年、地場産業の船舶関連部品やクレン部品などの運搬機関連、水力・火力発電設備関連、電炉・高炉設備等の製鉄関連、半導体関連など複雑形状小型製品から中型製品、20t~30tの大型製品加工の材料手配から組立・据付まで一貫生産体制を構築し、多種多様な顧客ニーズに対応しています。
2015年に大分市下郡にM&Aで取得した工場にて各種プラント設備のメンテナンス事業に新規参入し、加工・製造とメンテナンスの連携による「製造業のサービス化」を図り、シナジー創出に取組んでいます。
また、2021年に大分市大分流通業務団地に空調設備を完備し、工場内温度を一定管理した新工場建設により、コロナ禍で経済停滞の中でも活況を呈している半導体関連部品などの超精密機械加工に取組んでいます。
☝ 【「てんこう」開発に参加した経緯、開発での貴社の役割、苦労した点、エピソード等】
県内協議会や組合組織に加入・参加し、異業種との交流により多様な地域企業間・グループとの繋がりや産学官の研究開発ネットワークの人脈を通して各業界からの情報収集につなげています。
そのひとつとして、大分県航空機産業参入研究会「おおいた空飛ぶ研究会」への参加をきっかけに、九州工業大学の開発する、地球低軌道環境観測衛星「てんこう」の共同開発を県内企業4社で参画しました。社員5名を中心にプロジェクトチームを構成し「てんこう」内部金属構造の加工・製造に取組み、完成まで10ヵ月を要しました。
製作にはロケット打ち上げ時に激しい機械的環境に耐荷できる軽量構造が求められ、サイズ約12㎝×8㎝の名刺2枚程度の小型部品から、約30㎝×27㎝のA4用紙の一回り大きいサイズまで、合わせて50点の内部部品を製作しました。
☝ 【開発に参加したことでの社内外での変化】
「てんこうプロジェクト」の参画により、航空宇宙分野品質認証である「JISQ9100」を取得したことが社内の品質管理徹底への意識向上につながり、成長志向の大きな動機付けになっています。
また、各種取材によるマスメディアへの露出により弊社への認知度が上がるとともに、会社の目指すビジョンや方向性の発信と、それらの情報を社内・社員で共有することで社内統制につながっています。
☝ 【「宇宙への挑戦」に関わる貴社のこれからの展望】
宇宙分野については、官需中心の市場に米国民間企業が台頭するなど成長の兆しがあり、NASAの積極的な宇宙事業の民間委託など、今後市場の伸長が期待されます。
その中で、大分空港においてアジア初の水平型宇宙港(スペースポート)の計画が進んでおり、JISQ9100認証取得と「てんこう」製作に参画した経験と、新設・大分工場での超精密機械加工の取組みは今後のスペースポート関連の航空・宇宙部品加工への参入の大きな源泉になると考えています。
☝ 【UIJターン就職希望者や学生へのアドバイス】
「ものづくり」は未経験者の方でも学歴・職歴に関係なく、興味や魅力を感じることで専門的な知識やスキルを身につけることができ、やりがいを感じます。また、やりがいを感じることで更なるスキルアップを図り意欲や向上心を持つことができます。
1つの製品を完成させるための加工工程に携わり、個々の技術と会社の仲間との連携により製品が仕上がっていく達成感を感じてほしいです。
■ニシジマ 精機株式会社
大分県佐伯市大字戸穴469
0972-27-6633
http://www.nisijima.jp/
~ 最後に ~
皆さんいかがでしたでしょうか。
各企業様の「モノづくり」に対する取り組みを拝見すると様々なご苦労があったことが分かり、
大分県内にこのような「モノづくり」をされている企業があることは非常にワクワクします。
興味を持たれた方は是非企業様のHPも覘いてみて下さい。新たな発見があるかもしれません。
大分県内への就職・転職をお考えの方は、是非、大分の仕事情報サイト「FAVOita」や、
おおいた産業人財センターのHPの求人情報(求職者用)をご活用下さい。
おおいた産業人財センターでは「大分県内企業」と「UIJターン希望者」の橋渡しを行っています。
気になる企業について、お気軽にご相談ください。
■おおいた産業人財センター
〒870-0035 大分市中央町3-6-11 ガレリア竹町内
097-533-2631 フリーダイヤル 0120-119201
https://www.enisie-oita.net/
改めましてお忙しい中、今回の特集記事の取材に応じていただきました
「株式会社 江藤製作所」さん、「株式会社ケイティーエス」さん、
「株式会社 デンケン」さん、「ニシジマ精機 株式会社」さんに御礼申し上げます。